This is it

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監督:ケニー・オルテガ マイケル・ジャクソン
脚本:(ドキュメンタリー)
制作:ポール・ゴンガウェア ランディ・フィリップス
主演:マイケル・ジャクソン

2009/米国/111分

あらすじ
歌手の故マイケル・ジャクソン(米国)が7月から予定していたイギリスでのコンサートのリハーサルを映画として公開したのもの。
数年ぶりのライブを目前に、6月に急逝したマイケル・ジャクソン。その早すぎる死を悼み、実現する事のなかったライブのリハーサル風景を通じて彼の表現したかったステージ、メッセージを届ける。
その記録映像はステージ上にとどまらず、ダンススタジオやPV撮影現場まで広範に及ぶ。大勢のスタッフの目線でのマイケル・ジャクソン、ライブを伝えており、一般のファンの知らないスーパースターを映し出している。

レビュー
まず、最初に矛盾する事から。人は死してなお死なず、それでも死んだら終わり。
誠に残念の一語。
それはあまりにもマイケル・ジャクソンが、彼が生み出す作品が、ステージが素晴らしすぎるから。
順を追って。
各スタッフへのインタビューがふんだんに盛り込まれているが、映画の冒頭でのダンサー達へのインタビューが非常に印象的で泣けた。数人のダンサーに、このステージにかける意気込みを聞いている。多くが目を輝かせ、いかに光栄かを熱く語る中、シャイな印象を抱かせる若者が確かこんな事を言う。「自分がどれだけのことをできるか、知りたいんだ・・・。This is it.」かくして、開けられる事のなかった幕を開ける。

マイケル・ジャクソンは作られたアイドルとしての一面が私には非常に強く、それは生前の彼のドキュメント番組を観てもそうであった。もちろん、普段のマイケルは素晴らしい人間で、ファンをとても大切にし、心から歌を、ダンスを愛するアーティストであったのは間違いない。
しかし、後年の報道が示すように、不気味とも言える容貌に至った整形後の顔、各種ゴシップ、精力的とは言えない創作活動、伝えられる財政状況もあって、私の中では「終わってしまった人」であり、今回のライブも「苦し紛れの資金稼ぎ」くらいにしか思ってはいなかった。

だが、映画を観て私のマイケル観、もとい人を見る目の浅薄さに恥じ入るばかりであった。
素晴らしい
誠に素晴らしい映画であった。
まず、彼がこれほどまでに自分を出しているとは思わなかった。リハーサル風景のポージング写真が映画公開前に露出していたが、帽子を深くかぶり、鼻から下はスカーフで隠すといった異様な風体。それでもポーズのキレからマイケル・ジャクソンであることをうかがわせるが、その光景は「マイケル・ジャクソンってもう人前に顔も出せないのか・・・。」と悲しい気持ちにさせたものだ。
そんなマイケルが、サングラスをかける事も多いが基本的には顔を晒してリハーサルをしている。心配していた異様な風貌と言った印象も抱かせない。
これには大変に感動した。
次に、彼のダンス。全くと言っていいほどにパフォーマンスが落ちていなかった。
いやいや、専門家なり、ずっと彼のダンスを見てる人に言わせると衰えているのかもしれないが、若くてマッチョなダンサー達に囲まれて踊る彼はとても50歳とは思えなかった。むしろ振り付けを含め、リードするマイケルは神々しくもさえある。
歌も誠に素晴らしい。
年を取って声がダメになるアーティストが多いがこれは致し方ない。だって、声も、すなわち声帯も身体の一部なんだから。
それなのにマイケルは澄んだ声で歌い上げるのであった。
リハ風景で印象的だったのが二点。
音楽チームのトップのオッサンが「マイケルは音楽の基本的な事を全て理解したうえで話ができるからとても助かる」と言っていたが、実際にその場で音を作っていくシーンは目からウロコ。
なるほど、最高のエンターテイナーには最高のスタッフがつくのだな、と。
もう一点が、ジャクソン5の曲のリハーサル中。どうにもやりにくそうにしているマイケルがストップをかける。その中でイヤホンから出る音にダメ出しする中で、「僕は自分の耳で音を聴くように育てられてるんだ」「これは怒ってるんじゃないよ、愛だよ」って言ってたシーン。
彼の父はジャクソン5のプロデューサーとして有名、高名であると共に、彼自身もまた自らのスキャンダルで身を落としていった。実際に、彼もマイケルとは不仲であると伝え聞く。
そんな父に教えられたであろう音楽の基本が今もって彼の中に生きているのかと思うと、何とも胸につまらせられるものがあった。

映画の最後にスタッフと円陣を組んで、彼が直接想いを告げるシーンも象徴的。
これほどチームプレイを大切にしている人とは思わなかった。

マイケル・ジャクソンは単なるセレブリティではなく、非常に強いメッセージ性を持ったアーティストである事も見逃せない。
私自身、大好きな曲「Black or White」などではそれが顕著に現れているが、今回も例にもれない。
自然破壊に警鐘を鳴らすメッセージソングにとどまらず、彼自身に投げかけられた嫌疑に関しても答えを出しているように思える。
そう、全てに対して彼は言っているのだろう、


と。
素晴らしい映画です。
是非ご覧になって下さい。
死してなお死なず。彼の生み出した沢山の感動は今後も我々に生きていくでしょう。
しかし、やはり人は死んだら終わり。
もしも彼が生きていればこの映画など比較にならないほどに素晴らしいライブを行なっていたでしょうから。
この映画を観て、ますます「悔いのない人生」を送ろうと気持ちを新たにしたのでした。

採点:☆☆☆☆★
公開期間を延長したようです。
まだの人は時間を作ってでも行って観て下さい。
そして、妻にブーブー文句言ったりセクハラしたりする時、私はこう言うのです。「これは怒ってる(セクハラしてる)んじゃないよ?愛だよ」と(´∀`)